今、ここにいることの至福(「…の手触り」〜昨日の手触り〜劇評)

2020年8月に現代サーカス集団〈ながめくらしつ〉とスケラボのコラボレーションした映像作品【「…の手触り」〜昨日の手触り〜】を配信しています。
本作品の劇評をいただきましたので掲載いたします。


今、ここにいることの至福

子どものころ、布団から出たくない朝があった。自分が住んでいる小さな町が、牢獄のように思えた日があった。『昨日の手触り』を見て、そんな日々のことを思い出した。もしそんな日に、自分の町にもこんな秘密の場所があることを知っていたら、布団から抜け出して、町を歩いてみたくなったかもしれない。

駅の地下道を抜けてビルの階段を上っていくと、廃墟のようになったフロアがある。古ぼけた木の椅子、天井から垂れ下がる布。ピアノを弾く人がいて、椅子や布の上を飛ぶように、転がるように歩く人がいる。顔を見合わせ、鏡合わせのように踊る人がいる。

自分を縛りつけているこの体、そして体をここに縛りつけている重力が、重く、重くのしかかるように感じるときがある。だが、飛行機が飛べるのは重力があるからだという。自分の体が、重みをもって、ここにある、ということ。それがあらゆる至福の源であるということを実感できる機会は、本当に少なくなってしまった。

自分のまわりの小さな世界がいやになったときには、テレビを見たり、ゲームをやったり、本を読んだりして過ごしていた。それでも、自分がここに身体を持って存在していることが祝福だとは、とても思えなかった。

公園で夜中までかくれんぼをしたときのこと、放課後にこっそり教室の机の上を歩いてみたときのことを思い出す。この瞬間のために、ふだんの生活のすべてを投げ出してもいい、と思うような、ヒリヒリとした感覚を思い出す。

そんな感覚を味わうために、人生を賭けてしまう人がいる。そんな人に、ふと出会ってしまうこと。自分だってその人の体をじろじろ見てもいいんだ、と思えること。自分が見つめることで、その人はこの瞬間をよりヒリヒリと生きられるんだ、と思えること。その時には、自分が体をもってここにいることが祝福だと思えるかもしれない。

そんな秘密の場所がどんな町にもあれば、この世界はきっと、もっと楽しくなるんじゃないだろうか。

スケラボさんの活動を応援します。


横山義志(SPAC-静岡県舞台芸術センター文芸部、東京芸術祭国際事業ディレクター)


 

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※購入方法 vimeoに会員登録後にチケット代1,000円をクレジットカード(JCB以外)又はPayPalでお支払いください。ご購入いただくと、Vimeo上で期限なしでご覧いただけます。

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出演:目黒陽介、長谷川愛実、谷口界、大塚郁実 / イーガル
演出:目黒陽介
音楽:イーガル
演出助手:安岡あこ

音響:泉田雄太
音響協力:佐藤こうじ(Sugar Sound)
舞台監督:守山真利恵
舞台協力:わっしょいゆ〜た
照明操作:阿部ちさと
撮影・編集:磯村拓也(Scale Laboratory)
配信・翻訳:及川紗都(Scale Laboratory)
宣伝美術・Web:住麻紀(Scale Laboratory)
写真:小島一晃
広報:辻村聡子(Scale Laboratory)
制作:奥村優子
協力:Circus Laboratory CouCou
プロデューサー:川上大二郎(Scale Laboratory)

主催:Scale Laboratory 協力:沼津ラクーン
静岡県文化プログラム地域密着プログラム事業

Might be in situ -yesterday- is performed by the contemporary circus group ”Nagamekurasitsu” in collaboration with Scale Laboratory.
The performance took place in Numazu RAKUUN, on 29th and 30th August, which is postponed.
We distributed pre-recorded video instead of real performance.
For this time, we re-edited that video.
There is a skeleton space at 8th floor, which is a former department store dining area, which looks like an abandoned building overlooking the city of Numazu.
The entire 8th floor will be used as a stage to spin the story.
Please experience the story born in Numazu whenever and wherever you are!

Vimeo LINK

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Cast: Yosuke Meguro, Aimi Hasegawa, Kai Taniguchi, Ikumi Otsuka / Ygal
Director: Yosuke Meguro
Music: Ygal
Assistant Director: Ako Yasuoka

Sound: Yuta Senda
Sound Cooperation: Koji Sato (Sugar Sound)
Stage Manager: Marie Moriyama
Stage Cooperation: Wasshoi Yuta
Lighting Operator: Chisato Abe
Camera/Edit: Takuya Isomura (Scale Laboratory)
Distribution/Translation: Sato Oikawa (Scale Laboratory)
Graphic Design/Web: Maki Sumi (Scale Laboratory)
Promotion: Satoko Tsujimura (Scale Laboratory)
Photo: Kazuaki Kojima
Management: Yuko Okumura
Support: Circus Laboratory CouCou
Producer: Daijiro Kawakami (Scale Laboratory)

Production: Scale Laboratory
Supported by Numazu RAKUUN

Advanced Program for Arts and Culture Shizuoka, Community-based Program